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立夏 

夏さえ感じるような日々が続くと思ったら、暦の上では、「立夏」。夏の始まり。六甲山の新緑も、明石の海も、風も夏の到来を待ちわびていたかのようで、せっかちな鱧は、もう、顔を出してきました。都会なのに、ちょっとのんびりした神戸の街中で、「せっかちな鱧」と顔を見合せ、六甲山を見上げると、田舎育ちの私は、ふと、故郷を思い出します。

私の育ったところは、内陸部の山合の小さな田舎町で、四方を山で囲まれ、その真ん中に大きめの川が流れる盆地にある町でした。

遊びといえば、山や川でが、もっぱらで、夕方になると鳴る、ダム放水の大きなサイレンが、家に帰る時間の合図という、今では考えられないような町でした。

ある日の土曜日。朝、学校に行くと、大屋が、

「オーイ 滋野。今日、学校終わったら、釣り行こうぜ。兄ちゃんにいい場所教わったんだ。」

「いいよ。何処だよ、そのいい場所って?」

「田中大橋の近く。」

「じゃあ、田中大橋に2時でいいか?」

「あぁ。海野も誘うぜ。」

「わかった。言っておくわ。」

「やべぇ。先生来た❗じゃ、後で。」

白髪混じりで眼鏡をかけ、いつもの真っ白いシャツにネクタイの担任の先生が、入ってくると、みんな、慌てて席につき、日直の生徒が

「起立。礼。」

「おはようございます。」

「はい。おはようございます。」

いつもの、落ち着いた、それでいて、よく通る声で挨拶を済ます。

土曜日は、「半ドン」。午前中、いつも通りの授業のあと、給食を食べ、掃除をして下校。13時には学校が終わる。家に帰ると、靴も脱がず、ランドセルを玄関に下ろすと、そのまま、家を飛び出し、約束の田中大橋に向かう。後ろで、母親の「宿題やってからにしなさい‼️」という声がしているが、そこは、聞こえないふり。当時、算数と理科の得意だった息子に対し、「早稲田の理工」と、気の早い母ちゃんは、呪文のように言っていた。

田中大橋につくと、大屋と海野は待っていて、

「滋野遅い❗行くぞ‼️」

「その前に、エサ取っててくぞ。」

そういうと、大屋は、田中大橋のしたにおり、川縁の茂みの中に入って行くと、大きめの石を、次々とひっくり返していく。すると、石のしたから、団子虫やら、なにやら、いろんな虫が出てくる。その中の、ミミズをとり、袋に入れていく。このミミズがエサだ。エサをとると、

「よし、行くぞ❗」

大屋は、そう言うと、川縁を上流に向かって歩く。しばらくすると、川が広くなり、流れの緩やかな場所にでる。そこに、大きな岩が川から出ていてその周りが、大屋の兄ちゃん曰く、「いい場所」らしい。

「本当に釣れるんか?」

「兄ちゃんが言ってたんだよ。友達がここで50センチぐらいの鯉釣ったて。」

3人は、大屋の持ってきた釣り道具を拡げ、慣れた手付きで、竿を用意し、さっき捕ったばかりのミミズを針につけると、さっそく、釣りをはじめた。

「もうちょっと、あっち行けよ。糸絡まるだろ。」

「俺の狙いはそこなんだよ。お前こそ、もうちょっと、ずれろよ。」

そんなやりとりをしながら、釣りをして、しばらくすると、ちょっと離れたところで、釣りをしていたはずの海野がいない。あれ?っと思っていると、後ろのほうから、海野がやって来て、

「ほら、カエル。殿様カエルかな?」

「全然違うよ❗ただの雨蛙だろ。」と大屋が寄ってきた。

「川に泳がしてみようぜ。」

そう言うと、海野が水際までいくと、川にカエルを放した。もう、このあたりになると、魚の釣れない釣りには飽きて、水遊びになる。3人とも靴を脱いで川に入り、もう、びしょびしょ。

「あ~あ。また、母ちゃんに怒られる。」

「大丈夫だよ。帰るまでには乾くよ。」

なんていいながら、竿を片付け、帰り支度をする。来た道を戻りながら、草むらにはいり、虫を採ったり、また、川に入ったり。田中大橋が近くまできたところで、放水の大きなサイレンが鳴り響く。橋の上から、知らないおじさんが、「早く川から上がって帰れ」と声をかけてくる。「は~い。」と返事をすると、海野が走りだす。他のふたりも、あとを追うように走りだす。

「全然、釣れなかったな。」

「兄ちゃんが言ってたんだ、あそこはいいって。」

「早く帰らないと怒られるぞ。」

また、3人は、家に向かって走りだす。

家に帰ると、頭から角が出ているかと思うほど怖い顔した母ちゃんに

、散々怒られた。それから、宿題をしていると、父ちゃんが帰ってきて、妹が「お兄ちゃん、ご飯だよ。」と部屋まで呼びにくる。

食卓に行くと、「お隣さんに、筍いただいて。」と母ちゃんがいいながら、筍ご飯をついでくれる。

ミミズにカエルに筍。今では、忘れられそうな立夏が、そこにはあった。

せっかちな鱧と、その鋭い歯をみると、「早稲田の理工」と呪文を唱えながら、そんなことは何処吹く風の息子を説教している、「角がでた母ちゃん」を思い出す。

ゴールデンウィーク

5月から、令和元年となり、ちょっと新たな気分になったのも束の間、ゴールデンウィークも残すところ、あと、3日となりました。今年は、10連休をとられた方も多かったと思いますが、我々、飲食業界は、毎年のことながら、仕入れに、バイトスタッフの確保に追われながら、ゴールデンウィークを激走中です。

さて、写真は、もんごいか。今日の明石の昼網もので、サイズは1.7キロ。ハリイカに比べると、ちょっと硬いが、今日は、薄く造って生姜醤油。あわせて、初夏のお酒なんか、キュッと一杯いかがでしょうか。